現代スサノウの言霊 

言霊原理による創造について

 母音・半母音・父韻・親音・子音を心に自覚確認した創造行為とは、どんな効能を発揮することができるのでしょうか。物質構造を究極的に明らかにする物理学で喩えてみましょう。物質宇宙を分析していって、もうこれ以上分けたらその物質そのものでなくなってしまうというところまで進みますと、物質の最小要素としての元素に到達します。それ以上に分析が進みますと、物質そのものを構成している先天構造である電子・原子核さらには陽子・中性子・・・等々、素粒子の世界に入ります。そこでいま原子核内の素粒子のすべての構造、性質、エネルギー等々が明らかにされ、物質とはいかなるものであるかが解明されたとなるとどういうことになるでしょうか。この世に存在するすべての物質の合成、分解が可能となり、その物質間の化学反応は手に取るごとく予測されることになりましょう。手にとって見られる試験管の中の反応はもちろん、極微から全宇宙大にわたる物質現象はことごとく把握解明される可能性が開かれることになります。
 言霊母音・半母音・父韻・親音・子音という精神の先天・後天要素を把握・自覚することは、右に物質的な比喩として述べたように人間精神内のすべての現象に対してその構造・性能の解明、経過、予測等々を可能にします。日常繰り拡げられる目の前の生活から産業・経済・教育・芸術・宗教・道徳・政治等々社会のあらゆる現象について、また世界の混乱する国際情勢の適確な把握・予測・方策に到るまで、掌の上にあるものを探るごとく処理することを可能にするでしょう。
 言霊の原理は一切の霊的現象に対しても真相を明らかにし真偽の判断の基礎となりましょう。さらに社会のあらゆる主義・主張・論説等についても人間精神の根本の立場からその長所・欠点の指摘、アドバイスとその見通しを明示することが可能です。そして最終的に人類歴史の歩むべき方向・方策やその転換点の率直にして明細な実行可能な道を提示することも可能でありましょう。
 三千年以前世界は言霊原理を中心に精神文化の華が咲いていました。これを人類の第一文明の時代と名付けることができます。次にこの精神文化の精髄である言霊の原理を故意に隠没する政策が執られました。物質文明は急速に発展させるためです。爾来三千年間、弱肉強食一色の世界となり、その中から物質文明は現在あるがごとく発達しました。これが人類の第二の文明時代であります。この物質文明の発達の末に人類は眩い物質的繁栄に恵まれると同時に、一歩誤れば人類絶滅の危機に直面せざるを得ない事態をも招来しました。この時第一の文明の根本原理であった言霊の原理が人間の潜在意識の奥の奥から不死鳥のごとく甦ってきたのです。人類は、いまから、第一の精神文化と第二の物質文明を車の両輪としてそれを総合した第三の文明の創造時代に入ることになります。二十一世紀は人類の新紀元第一世紀でなければなりません。しかしながら第三文明時代に入るためには、どうしても現在の人類の危機を乗り越えねばなりません。そしてそれがための唯一の方法はやはり第一の文明の根拠である言霊原理の復活とその体得以外にはありません。
 言霊母音・半母音・父隠・親音・子音の自覚による言霊エの運用者の出現が切の望まれます。それが各宗教が予言してきたキリストの復活、仏陀の下生の真の意義なのであります。私はいままで言霊とはどういうものか、またそれを理解し、その原理に則って行動するにはどのような勉強修養が必要なのか、いわば言霊の本論としてお話してきました。この本論の大筋をご理解頂いたこととして、これからは言霊の原理から見ると現在の世界・社会はどのように解釈されるのか、社会の混乱の解決はどの方向に求められるべきか等についてお話を進めていくことにいたします。いってみれば言霊原理の応用問題といえます。先に昆虫の成長進化のことをお話しました。幼虫から蛹の、そして羽化して成虫となります。人間については羽化登仙という言葉があります。昆虫の幼虫・蛹の時代はいってみれば人間の言霊ウ・オの次元段階です。羽化して初めて言霊アの宇宙へ自由に飛び出す段階に入ります。そして言霊エ・イの次元が〝登仙〟の言葉がぴったり当てはまる段階といえましょう。仙人とは実は隠遁者のことではなくて人間が人間を知っている人という意味です。昔仙人のことを山人といいました。山とは古代八間すなわち八つの間を意味しました。八父隠の意味です。人生を言霊で捉えることのできる人のことでした。事物を言霊ウ・オの次元で見るよりは、言霊ア・エ・イとさらに観点を上げてまたは観点を深めて見る方が、ずっと大局的にそして正確詳細に解釈することができるでしょう。
 まず言霊の観点から現在の世界の危機はいかに解釈され、どんな解決方法が提示されるでしょうか。この命題こそ実は言霊を社会に紹介しようとするこの本の主たる目的であるのですが、それを正確にご理解頂くためには言霊に関するすべてが理解の下敷きとならねばならず、さらに多くの説明を付け加える必要がありますので、ここではその根本解決に至る大筋のみを記すことにします。
 人間は現在の状況にいかに対処すべきかを決定するためには、現況が過去よりどのような経緯でかくなったかを知らねばなりません。つまり人類が直面する危機を招来した世界歴史をあらためて調べることです。ところがここに問題があります。人間は事物を想定研究する場合、常に自分の経験・知識を拠りどころとします。歴史の研究についても同様です。歴史の著書の知識が人間の持つ性能の全部を盡していない場合、その人の書いた歴史書はまた偏頗なものとならざるを得ません。現代に流行する歴史書を読みますと、その論旨が人間の全性能である言霊ウ・オ・ア・エ・イ五段のうちのたかだか最初の言霊ウとオの二段階だけから全歴史事実を垣間見ているに過ぎないのです。そこには言霊アである魂の自由飛翔もなく、いわんや言霊エ・イである道徳の自由選択も言葉の根源原理も見当りません。それゆえに過去の世界に関して、また日本民族に対して、歴史的に大変な見落としや誤りが生じました。
 一、現代は物質科学文化の華開く時代です。これに目を奪われて、古代は文化の発展のない野蛮時代だったと思いがちです。大変な錯覚です。確かに古代は物質科学的には貧弱であったでしょう。しかし紀元前数千年以前に永年の研究を要したと思われる人間精神の根本構造を示す言霊の原理が発見確立され、その原理に基いて古代大和言葉の日本語が制定され、現代人の想像もできないほどの立派な精神文明の華が咲き、世界はその原理によって統一されていたのです。「世界は一つの言葉なりき」でありまっした。
 一、世界数千年にわたる歴史は、各民族・各国民の恣意的活動の総合体に過ぎないように思われています。違います。表面テンデンバラバラの恣意的行動のごとくみえながら、実はその根底に極めて大局的な意志と合理的原理によって統轄された、一定の目的と綿密な計画をもって推進されつつある全人類の一大ドラマ、それが世界の歴史なのです。そして現在刻一刻進行している世界の歴史の根底に古代より連綿と続く意図が働いています。この歴史創造の意図を経綸と呼ぶのです。

 言霊原理に基いて人類数千年の歴史の概略を書いてみましょう。

 一、数千年ないし一万年近い昔、たぶんヒマラヤ付近の標高の高い地方において、賢者のグループの永年の研究の結果人間精神の究極構造が解明され、その要素が言霊五十音と規定された。そしてこの原理を基礎として古代大和言葉の制定となった。その賢者のグループの代表者がこの原理による理想社会を建設する目的で平地に下り、日本に到着した。日本の建国である。その国の責任者をスメラミコトという。言葉を統一する者、の意である。
 二、スメラミコトは言霊の原理に則り、文字その他の文化を創造し世界各地に広めた。武力のみでなく、光と徳による世界の統一と文明の創造の時代が続いた。人類精神文明の華咲く時代である。古書はこの時代の王朝を、邇邇芸、日子穂穂出見、鵜葺草葺不合の各王朝時代だと伝えている。それは一人の人間の名ではなく、幾人もの天皇が続く王朝の名である。ちょうど神武天皇より現代の裕仁天皇まで百二十四代を神倭朝というごとくである。なお鵜葺草葺不合とは、ウの家屋すなわち科学がまだできあがっていない、という意味である。
 三、三千年ないし三千五百年ほど以前、代々のスメラミコトの政治の方針が変更された。人類の第一の文明である精神文明に次ぐ第二の文明としての物質文明特に科学文明の発達を促進するための方策の採用である。そのためにはまず第一の精神文明の根本原理である言霊の原理を隠没して、人類の言葉を乱し、人間の表面性能である言霊ウ・オ・ア・エの四性能が統一されることなくバラバラに働くことによって、弱肉強食の世界を作り出すことが一番の早道である。それゆえ世界は言霊ウとオの、すなわち欲望と経験知の、他の人間性能をおしのけた独走である権力闘争の時代が始まった。
 精神原理の隠没の方策は、外国ではイスラエルのソロモン王の時の三種の神宝の喪失がそれを示し、日本においては神武天皇の神倭王朝の創立ならびに崇神天皇の時代の三種の神器と天皇との同床共殿の制度の廃止の事実が明瞭に示している。爾来三千年間、暗黒の闘争、戦争のくり返しの時代、その勝利者となるがための物質的優位を保つ目的の科学研究が促進されてきた。
 四、この暗黒の三千年の期間、物質科学が一応の成果を挙げる(その責任者を古事記では須佐男命という)まで、またその成果があがって再び第一の精神文明が人類に甦える時の用意のために、種々の方策が決定された。

A、この時代の主要目的である物質科学の進歩の責任を担うものとして西欧民族特にユダヤ民族が選ばれた。
B、言霊原理の隠没の代用として、また再びそれが世に現われる時の精神的用具として、各種の宗教・哲学が創設された。この担当地域は主として東洋である(言霊の太陽に対して、その光を反影するものとして古事記は月読命という)。現存の世界の大宗教はみな右の目的のためのものである。
C、やがて甦えるべき言霊原理を比喩、呪物、形式等によって伝統として伝えるために、わが日本において種々の方法が事項された。
 イ、言霊原理によるスメラミコトとしてでなく、国民信仰の対象者としての日本皇室の存続が計られた。その内部特に賢所の儀式の数々の〝型〟に言霊の意義が表徴されている。
 ロ、言霊原理の比喩、呪示としての古事記・日本書紀の神代巻の制度である。その内容である神話とは神の話ではなく、神の名の呪示による言霊原理の話である。
 ハ、二十年ごとに遷宮の規定ある伊勢皇太神宮の建立。その内宮の本殿の建築様式を唯一神明造という。その社殿の構造自体がアイウエオ五十音言霊図の構造そのものである。
 かくて、時到り第二の物質科学文明があるところまで成果をあげ得た時、甦える第一の精神文明の原理である言霊原理の担当者は当然わが日本民族である。その責任者は少なくとも日本語を話す人の中から現われることは明瞭である。
 右が人類の八千年ないし一万年と推定される歴史の骨子であります。詳しい説明は多くの紙数を必要としますので他の機会に譲ることになりますが、このような歴史を背負った私達日本人は世界の現状にどう対処したらよいでしょうか。歴史創造の原理の伝統を受け継ぐ者として、言霊の原理を完全に復活させ、自覚することが急務でありましょう。
 この三千年の間、西洋は物質科学を中心とした帰納的学問の追求にひたすら従事してきました。古事記のいわゆる須佐男命の思想体系(八拳の剣)の実行者です。一方東洋は月読命としての体系(九拳の剣)である「言霊原理の投影」の宗教哲学を後生大事と護って永い貧困の生活を続けて来ました。この二者はどこまでも平行線を辿る互に相容れないものとしての関係にありました。この三千年の統一のない闇の世に天照大神の十拳剣である言霊原理の世界への再登場が実現するならば、人間の持つことが可能なすべての思想体系が完全に出揃うことになります。このことは人類史にいまだかつてなかったことであり、人類史における新しい夜明けです。人類は初めてその具有する性能のすべてをみずからのものとし、自由にその未来の目的に向かって操作することができる段階を迎えることとなります。科学の莫大な生産物を人類の真の福祉のためにコントロールできる人間精神の統一成就です。各宗教、神話が予言する新しい人類文明建設の始まりです。人類文明の第三期時代が始まります。
 このことに因んだ話をしましょう。奈良の桜井市に大神神社があります。大三輪とも書きます。この神社の鳥居は珍しいことに図のように三つの鳥居が横に連なっています。鳥居の鳥は先に説明がありましたように十理の意で、鳥居とは五十音言霊図を表わします。言霊ウの金木音図(建速須佐男の命)と言霊オの赤珠音図(月読の命)を左右に従えて、真ん中に言霊エの天津太祝詞音図(天照大神)が確立された第三文明時代の人類の繁栄の原理を予告表徴したお宮なのです。三つの輪とは第一・ニ・三文明時代発展の様相を呪示しています。
 しからば言霊の原理から見て、今後の世界・日本はどう変わっていくでしょうか。米ソ対立による世界の危機は回避されるでしょうか。日本民族の将来の世界の中での役割如何。第三文明時代の出発点となる時如何。このような現実の問題に対する具体的な見通しとその対策については、ここでは書くことを差し控えます。その詳細な解説には優にこの本一冊分位の紙面を要しましょうし、世界や日本の将来に感心と憂慮を懐く人が言霊の原理を体得し、それによって現代の歴史を詳しく見直すならば、おのずと把握理解することが可能なことでありますから。言霊の勉学を抜きにして新文明創造への責任をみずからに課すことのない歴史傍観者には、将来への具体的予言はまったく無用であることを、言霊原理自体が教えていることでもあります。
 法華経は言霊を表徴する摩尼宝珠を「その価大千三千」と尊んでいます。その真理の価値は大千三千すなわち宇宙と同じだということです。魂の求道と模索の遍歴の末に、人類が直面する現在の危機を解決する鍵がこの言霊原理より他に存在しないことを知った人は、速やかにこの言霊の門をご自身の心でもって叩かれんことを切望します。あいともに勉学と修練に励もうではありませんか。