現代スサノウの言霊 

神代文字の原理

 古事記の本文を先に進みましょう。

 殺さえし迦具土神の頭に成れる神の名は、正鹿山津見神。次に胸に成れる神の名は、淤縢山津見神。次に腹に成れる神の名は、奥山津見神。次に陰に成れる神の名は、闇山津見神。次に左の手に成れる神の名は、志芸山津見神。次に右の手に成れる神の名は、羽山津見神。次に左の足に成れる神の名は、原山津見神。次に右の足に成れる神の名は、戸山津見神。故、斬りたまひし刀の名は天之尾羽張と謂ひ、亦の名は伊都之尾羽張と謂ふ。

殺さえし迦具土神の
 石拆神より闇御津羽神までの八神は、言霊五十音を粘土板に書いた表音神代文字である迦具土神を斬る主体である十拳剣の働きを言霊図(湯津石村)に結んで現われた道理について述べたものです。今度は十拳剣によって斬られる客体である迦具土神を検討する段階に入って行きます。
 迦具土神とは言霊五十音を粘土板に書いた表音神代文字の事でありますから、斬られた迦具土神から現われ、確認される道理とは文字の原理ということになります。言霊五十音がどんな法則に基づいて文字として表わされるかが検討されます。「子生み」の章に出て来る大山津見神・言霊ハは言葉のことであることは己にお話しました。山津見の山(やま)というのは図形 で示される八つの父韻の間(八間)のことで、この八間の原理から言葉として現わしたのが大山津見神であり、もじとして作ったものがこれから出て来る八柱の山津見神であります。
 著者の言霊学の師であった小笠原孝次氏は大山津見神の説明に当って、そのまた師である山腰明将氏の説をそのまま踏襲しました。八間の法則から作られた神代文字は現在に伝わるだけでも数十種あると言われていますが、それ等の文字がこれから説明する文字の原則をお話するに留めます。

頭に成れる神の名は、正鹿山津見神。
 頭は神知の謎。正鹿は真性の意。言霊の原理とその本性がありのままに表わせるような正系の文字の原理ということで、この原理から作られた文字は竜形文字である、と言われます。

胸に成れる神の名は、淤縢山津見神。
 淤縢は音の謎。胸は息を出す所と解けば、言葉を発生する法則に基づいた文字の作り方の意。

腹に成れる神の名は、奥山津見神。
   腹は原の意で、「筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原」などと古事記にありますように、五十音図表の図面のことです。奥は言霊オを操る、の意で、それぞれの文字の関連を考える意。故に音図全体の文字が調和するような文字の作り方、ということ。

陰に成れる神の名は、闇山津見神。
 陰は子の生れ出る処。闇は繰るの謎。言葉が文字ちして作られる原理。法則がよく分るよにな文字の構成法。

左の手に成れる神の名は、志芸山津見神。
 左は霊足り、で全体の意の謎。志芸は五十城または磯城・敷で五十音図言霊のこと。手は文字の書き方の意。五十音全体の文字の書き方に主眼を置いた文字の構成法。

 

次に右の手に成れる神の名は、羽山津見神。
 右は身切りで、全体に対して部分の意。羽は言葉。全体の調和というよりは、むしろ言葉の一つ一つの内容を強調する文字の作り方。

左の足に成れる神の名は、原山津見神。
蛇の比禮  足は歩く用を意味し、運用法のこと。腹は言霊図面。言霊図全体の運用法に基づいた文字構成法。

次に右の足に成れる神の名は、戸山津見神。
 右は部分の意、とは十で五十音図の横の段の十個の言霊の事で、母音、八父韻、半母音の別があります。五十音図の縦の十列の区別がよく分るような文字の運用・構成法。

以上古事記が挙げる神代文字の八つの作り方について大雑把に説明しました。これら八種の文字の手法が実際にどんな神代文字と符号しているのか、は今後の研究に期待したいと思います。古代に用いられていた神代文字は数十種にのぼることが伝えられています。その中で奈良県天理市にある石上神宮に伝えられる「十種の神宝」の「蛇の比礼・百足の比礼・蜂の比礼・種々物の比礼」と名付けられた四種類の神代文字を揚げておきます。(小笠原孝次氏「言霊百神」より引用)。比礼とは枚とも言い、また例顕とも書きます。文字のことであります。 

女島またの名は天一根
 正鹿山津見神より戸山津見神までの八神の神代文字の原理の人間の心の中に占める区分を女島といいます。女島の女は音名であり、文字を示していますし、また文字には言葉が秘め(女)られています。神代文字はすべて火之迦具土神という一つの言霊ン(天)から現われますので、天の一根とも呼ばれます。

  

斬りたまひし刀の名は天之尾羽張と謂ひ、亦の名は伊都之尾羽張と謂ふ。
 伊邪那岐命が迦具土の頚を斬った十拳剣の働きである分析・総合・整理・運用の作用が五十音言霊図の上で検討された結果が現われました。尾羽張とは鳥の尾の末広がりに広がる姿で、十拳剣の分析・総合の働きを活用して行けば、文明の創造が次から次へ末広がりに現われ発展して行くことが出来ます。人間精神の判断力(分析と総合)は文明創造の根本の力であることです。そこで十拳剣に天之尾羽張、また伊都之尾羽張の名がつけられました。天は先天・天与の意、伊都は御威稜で恵み・権威と言った意であります。